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HBSクリステンセン教授の最新刊:Competing against luck

12/11/2016

 
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今回ご紹介するのは、HBSのクリステンセン教授の最新作です。
 
クリステンセン教授と言えば、イノベーションに関する研究の第一人者であり、同分野の大ベストセラーである「イノベーションのジレンマ」の著者としても広く知られています。その同教授の最新作と言えば、読まない訳にはいきません。

書名は、「Competing Against Luck(運と競う)」 。一見、イノベーションと関係がなさそうな題名ですが、背景は以下です。

  • どうすればイノベーションを起こせるのか。それは、どの企業にも課された命題であると共に、多くの経営学者の研究対象でもある。
  • ただ、「これ」といった解が世に広まっている訳ではない。人によっては、「そんなの運だよ」と割り切る人もいる。
  • それに対し、本書の主張は、「イノベーションは運ではなく、自発的に起こせるはず」といったもの。

そして、その鍵となる理論は、「Jobs To Be Done(やるべき仕事)」。一言で言うと、以下です。

  •  消費者が商品を買うといった行為は、何かの「Job(仕事)」を成し遂げるために、その商品を「Hire(雇う)」しているということである。
  • そして、それを追求していけば、自ずとイノベーションが生まれる。

これだけでは少々分かり難いかもしれません。そのため、この理論を紹介するうえでクリステンセン教授がよく使うのが、「ミルクシェイク」の話です(私の在学中にも、授業で出たのを覚えています)。本書でも冒頭で紹介されており、この理論のエッセンスが凝縮されています。概要は以下。

  • 米国のファストフード会社は、メニューの一つであるミルクシェイクの売り上げをさらに伸ばすべく、商品改良を検討していた。
  • 当該ファストフードの店舗では、ミルクシェイクは、早朝と夕方に特に売れていることがわかった。
  • 上記「Jobs To Be Done」の理論をあてはめるべく、まず検証したのは、「早朝にミルクシェイクを買う消費者は、何のJobのためにミルクシェイクをHireしているのか」というポイント。
  • インタビューの結果、早朝にミルクシェイクを買う人たちが成し遂げたかったJobとは、「毎朝の長く退屈な車での通勤時間を凌ぐこと」だとわかった。
  • このJobに対し、例えばバナナをHireした場合、車中ですぐ消費してなくなってしまう。また、ドーナツをHireした場合、手がベタベタして運転がし辛くなってしまう。
  • 他方で、ミルクシェイクをHireすれば、車中で消費するのに時間がかかり(=すぐになくならない)、持ちやすいので運転にも支障にならない。
  • したがって、ミルクシェイクは、このJobに最適であるがためにHireされており、だから売れている、ということがわかった。
  • 一方、夕方にミルクシェイクを買っている消費者は、必ずしも早朝の消費者と同じJobを成し遂げるためにミルクシェイクをHireしている訳ではない、ということがわかった。
  • 夕方にミルクシェイクを買っている人たちの多くは、子連れの親たち。彼らの心境は以下:「子どもたちには、とにかくNoと言うことが多い。新しいおもちゃを買って欲しい、にNo。夜更かししたい、にもNo。その度に、一種の罪悪感に苛まれる。そんな中、子どもにYesと言えるものが欲しい。 ミルクシェイクぐらいであれば、子どもにも害はないし、コストもそこまで高くない。 子どもがハンバーガーと一緒にミルクシェイクが欲しい!といった時に、Yesと言えることが嬉しい。そのために、ミルクシェイクをHireしている」。
  • そのように考えれば、夕方のミルクシェイクの競合は、早朝の場合のバナナやドーナツではなく、「おもちゃ屋さんに寄っておもちゃを買ってあげる」などの行動となる。

つまり、このストーリーのテイクアウェイは以下です。

  • 同じミルクシェイクという商品でも、消費者がHireして解決しようとするJobは、状況によって異なる。商品中心ではなく、消費者のJobを中心に発想を転換する必要がある。
  • 当該ファストフード会社にとっては、ミルクシェイクという商品ではなく、消費者が成し遂げようとするJobにフォーカスし、今後もHireしてもらえるように解決策を消費者に提示し続けることが、売り上げアップにつながる。
  • 逆に、これらのJobに対し消費者がHireしうる商品・サービスであれば、ミルクシェイクに限らず、導入するべき(=イノベーションの余地あり)。

いかがでしょう。 もちろん、本書はこの理論について更に深堀していきますが、エッセンスはミルクシェイクの話に凝縮されています。これだけ聞くと、「当たり前ではないか」と思われるかもしれません。「イノベーションのジレンマ」についても、読後そう思ったのは、私だけではないはずです。心に残る重要なコンセプトというのは、ここまでわかりやすく研ぎ澄まされているからこそ、腹に落ちるのだと思います。

クリステンセン教授は、この理論を完成させるのに20年以上の歳月をかけたと記しています。その集大成である本書。ぜひ、ご一読をお勧めします。

shoe dog と陸王

10/8/2016

 
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今回は、ランニング・シューズを題材とした良書2冊をご紹介します。

一冊目は、米国でベストセラーとなっている「Shoe Dog」。Nikeの創業者であるPhil Knight氏による自伝です。同社はBlue Ribbon社として創業。1960年代に日本国内で絶大な人気を誇っていたオニツカ・タイガー(現アシックス)の米国への輸入販売からスタートします。その後、日商岩井(現双実)などの支援を受けて自社開発シューズで成功し、1980年に上場。それまでの過程を、「ここまで普通覚えていないだろう」と読者を唸らせるほどのディテールでKnight氏が赤裸々に綴っています。

人物描写が豊富で、ノンフィクションですが小説を読んでいるかのよう。自伝にありがちな自画自賛ではなく、創業者としてどれだけ迷い苦しんだかが描かれており、終章では家族等に関する後悔の念も記されています。マイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズなど、Nikeのセレブたちとの逸話を期待するとがっかりするかもしれませんが、「人間:Phil Knight」を知るうえではこの上ない書と言えるでしょう。ただ、一言申すとすれば、日本関係者が多いせいか文中に日本語のフレーズが何度も出てきますが、多くが間違っていた点でしょうか(日本人以外は気にしないでしょうが・・・)。日本語ができる編集者はいなかったのでしょうか・・・。

二冊目は、日本でベストセラーとなっている「陸王」。著者の池井戸氏の作品はこれまでほぼ全読しており外れはありませんが、本書はその中でもトップの部類に入る面白さでした。ジャンルとしては「半沢シリーズ」より「下町ロケット」。主人公の宮沢が率いる足袋専門の零細企業が、その技術を活かしてランニング・シューズを開発し業界大手に挑む、といったストーリーです。

600ページ近い長編ですが、一気に読めます。読後気になって少し調べてみましたが、「きねや足袋」という実在の会社が一部のモデルとなっているようです。

興味深かったのは、Knight氏も宮沢社長も、ビジネスを超越した「想い」を込めてランニング・シューズを作っているという点です。ノンフィクションであれフィクションであれ、その「想い」に読者は動かされます(私を含めて)。こういった「想い」が、結果的にビジネスの成功にも繋がるのではないか。ビジネスをやるうえでも、投資をするうえでも、忘れてはならないのではないか。読後久しぶりにランニング・シューズを履いて外を走りながら、そう思いました。

スタートアップ体験談:Disrupted: My Misadventure in the Start-Up Bubble

9/19/2016

 
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今回ご紹介するのは、ヒットドラマ「Silicon Valley」の脚本家でも知られる、Dan Lyons氏による話題の書です。

本書は、Lyons氏のHubSpotでの体験談となっています。同氏は、Newsweekにて主にIT業界をカバー。しかし、諸事情によりベンチャー企業のHubSpotに参画することになります。同社は、MIT出身の創業者が起業。飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大し、2014年にIPOしたベンチャー企業です。
 
内容は、一言で言えば「HubSpotのミレニアル世代主導のハチャメチャなコーポレート・カルチャーに、著者が辟易する(同氏は50代)」といったもの。
 
「Silicon Valley」の脚本家とあって、表現が巧みで、スラスラ読めます。出てくるエピソードは多少(かなり?)脚色が入っていると推測されるものの、シュールなコメディを見ているような感覚です。HubSpotの経営陣からしてみれば、「暴露本」とも言えるのかもしれませんが・・・。
 
Lyon氏は、HubSpotで起きていることは現在の米国ベンチャー業界の縮図だとしています。その主張の要旨は以下(少々極論かもしれませんが・・・)。
 
  • ミレニアル世代は、勤務先に「お金よりミッション」を求める。米国ベンチャー企業は、その特徴をうまく利用し、若者から搾取している。つまり、1)どんなにニッチなビジネスを展開していようとも、「世界を変える!」といった壮大な「ミッション」を掲げ、2)無料ランチや各種社内イベントを頻繁に開催することで「お得感」、「チームへの帰属感」、そして、「カルチャー」を醸成する。その「ミッション」と「カルチャー」を提供することによって、ミレニアル世代は安い賃金を許容する。また、「ミッション」と「カルチャー」が社内で絶対とされるがゆえに、それに「迎合しない」社員は早々に「卒業する(解雇される)」ことになる。この一連のプロセスはシリコン・バレーの「年齢差別(30代後半以上を軽視)」にもつながっている。

  • 現代の米国ベンチャー企業の成功モデルは、「ひたすらベンチャー・キャピタルから資金を調達し、セールス&マーケティングに膨大な資金を投入し、全く利益が出なくても売上の伸びだけをとにかく確保し、そのままIPOに持っていくこと」。一昔前は自前のテクノロジーの質がモノを言ったが、ソーシャル系が主流の今はテクノロジーで差をつけるのは難しく、セールス&マーケティングが勝負を決める。つまり、どれだけ安く、早く、多くセールス&マーケティングにリソースを投入できるか、それによって売上を伸ばすことができるか、というのが至上命題。そのためには、先ほどの「安く大量のミレニアル世代を雇用できる」ことが鍵となってくる。このモデルは、ベンチャー・キャピタルと創業者には巨額の富をもたらすが、(若い)従業員と一般投資家は割を食う羽目になる。
 
文中では、被害妄想(?)とも捉えられる箇所もあります。ただ、「ベンチャー・ブーム」を賞賛する記事が米国メディアに溢れる中、同業界のエキスパートではない私にとっては、実状を知るうえでの一つのビューとして参考になりました。拙著でもご紹介している「過去のIT
バブルにおける、当時の投資家の行動」と照らし合わせて読むのも興味深いと思います。

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    投資プロフェッショナル。著者。投資、MBA、書籍などについて綴ります。

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